鎌倉女学院では6年間を通して学びに向かう意欲・態度と生涯学び続けるための基礎を育成します。各教科の授業、鎌倉学や国際・環境学などの総合学習、クリティカルシンキングプログラム、様々な行事を通して、「課題を見つける」「調べる」「ディスカッションする」「思考する」「表現する」「発表する」という取り組みを繰り返します。学年を重ねるごとに、螺旋を描くように一人一人が力を伸ばしていきます。
古都鎌倉の中央に位置する学校の環境を生かし、歴史遺産に直接触れ、体験的に学ぶことによって、自国の歴史・文化の特色を理解し、さらには国際社会にあって、平和的・民主的に生きる日本人としてのアイデンティティの確立を目指します。
三島由紀夫の『春の雪』の舞台でもある鎌倉文学館を見学。まとめ学習も行い理解を深める。
鎌倉文化財のルーツでもある奈良・京都を3泊4日で探訪。歴史学習、古典学習、文化財講演の成果の総まとめ。
地球環境を取り巻く諸問題を考察し、問題解決に向かうためには世界の政治や経済というグローバルな視点を持つことが必要とされます。鎌倉女学院ではこうした観点から、「国際・環境学」というテーマを掲げて、世界の諸問題に対して主体的に臨める生徒の育成を目指します。
世界が抱える様々な課題について、ワークショップへの参加、シェアリング、ポスターセッションなどを通して学びを深める国際セミナー。
中3では週に一時間「環境」の時間が。1年間を通して環境について課題を見つけレポート作成を行う。
本州とは異なる自然環境や文化、歴史を体感する沖縄研修。1年間を通して研修地にまつわるレポート作成にも取り組む。
感情や主観に流されずに物事を判断しようとする思考力を磨くプログラムです。自分の考えや意見に客観性を持たせ、他者に理解されるように説得力をもって主張する手法を身につけます。各教科での日々の学習や取り組みに加え、新聞を読んだり読書をすることを通し論理的思考力を鍛え、そこで培った力をもとに小論文を書いたり、スピーチする訓練を行います。
各教科の授業で先生方からの本の紹介、読書タイム、友人同士での本を紹介などを通し全校で読書を楽しむ。
逗子開成高等学校と合同で開催している日本語でのスピーチコンテスト、田辺杯。他校の生徒のスピーチを聞くことも大きな刺激に。
答えのない課題に取り組む探究学習。
その学びの価値と、狙いについて、鎌倉女学院の探究学習に携わる、3名の先生に語ってもらいました。
「いつか、私が一言も話さずに終わる授業を実現したい」そう語るのは、探究学習プログラム開発に携わる酒主先生。教員の話を生徒が聞く。それは、ごく普通の授業のかたちです。しかし、教員の先導についていくだけで、答えのない社会を生きる「しなやかな強さ」を獲得することは難しいかもしれません。これからの中学校・高校教育に求められるのは、教員から生徒への一方通行の授業ではなく、生徒が主体的に学ぶ双方向の授業スタイルを確立することです。一般的に探究学習とは、生徒の思考力や判断力、表現力などの育成を目的に生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・分析、周囲の人と協働して進める学習活動を指します。多くの学校は特別プログラムとして探究学習を設置していますが、鎌倉女学院は、日々の授業にもその要素を取り込む試みを続けています。探究学習は、決して大きなプログラムのことだけを指すものではない。理科の主任を務める竹内先生は、鎌女の強みを次のように表現します。
「自主的に学びに取り組む姿勢が、自然と日々の授業で身についていく。それが、鎌女の探究学習の強みです」
普段の授業の充実。その発展として、鎌倉女学院では大きなターニングポイントを2つ、用意しています。1つが、中学3年で行う「環境」の授業。環境問題というグローバルなテーマから自ら課題を設定し、リサーチ・レポート作成・プレゼンテーションまでを1年をかけて行う授業です。環境を担当する石井先生は「この変化の多い時代、中高の学びだけでは、どうしても知識が古くなってしまう」と語ります。
「だからこそ、自ら学びたいことを見つけ、吸収し、挑戦する。そのプロセスを経験することで、学ぶことの価値を知り、生涯学び続ける土台を、このプログラムで養ってほしいと思っています」 もうひとつのターニングポイントは、高校2年に設定された沖縄FWレポート。
今度は個々がオリジナリティのある研究テーマを設定し、検証・考察を経て、さらにレベルの高い論文作成を行います。中高で経験した「主体的な学び」の集大成であるプログラムは、生徒に自信をもたらし、大学やその先の舞台でも学び続ける姿勢へとつながっていきます。
環境問題という大きな課題から自らテーマを設定し、ICTを活用しながらリサーチ・レポート作成・プレゼンテーションまでを行います。課題設定から解決までの流れを全員が経験、社会で生きる課題解決能力を養成します。
各自がFW研修地の沖縄に関するテーマを設定し、幅広くデータを集めて課題に対しての検証を行います。鎌女の学びの集大成として、単なる調べ学習やそのまとめにとどまらず、新しい価値の提案にまでつなげることが大きな目標です。
探究学習の成果を尋ねると、酒主先生は生徒の質問・意見の発言が増えたことと同時に、新しい発見があったといいます。
「生徒たちがこんなにも深く、いろいろなことを考えていたのかと感心させられることもあります」
これまでの一方通行の授業では気が付かなかった生徒の柔らかい発想、新しい考え方は、教員にも刺激を与えるものでした。答えのない問いに挑戦するのが探究学習なら、それは生徒だけでなく教員も同じ。生徒が成長を実感できるように、鎌倉女学院の探究学習は、さらなる進化と深化を続けていきます。
本校での探究学習の成果は、さまざまな分野で表彰を受けています。
沖縄FWのレポートで受賞を果たし、その経験を生かして大学で活躍している卒業生の声を紹介します。
かつて日本一の長寿県だった沖縄は、戦後、食の欧米化による肥満率の上昇などにより、長寿県ランキング首位から転落しています。この問題を「沖縄ならでは」のアプローチで改善できないだろうか。そんな発想のもとになったのは、私の目標と、経験でした。
私の目標。それは、医療の道を志していて、今回の探究学習でも、人の健康に関連付けた研究をしたかった、ということです。健康と沖縄を関連付けした研究と定めても、いくつもアプローチがあると思いますが、当時は特に栄養学の視点から考えようとしていました。なぜなら、私は当時料理部に所属していたからです。この経験を生かせば、沖縄の歴史や食文化を掛け合わせた、肥満改善の方法が見えてくるのではないか。そんな風に考えました。
改めて沖縄の伝統料理や食材をリサーチしてみると、栄養的に優れたものがいくつも見つかりました。それらの優れた効能や健康とのつながりを調べる中で、欧米食の過剰摂取による疾病との関係が見えてきました。沖縄の伝統料理を現代的にアレンジし、いまの食生活にうまく溶け込ませることができれば、肥満問題や生活習慣病は、徐々に改善されていくはず。その道筋が見えてからは、ヘルシーで、かつ無理なく日常の食卓に並ぶメニューを提案することに力を注ぎ、レポートを作成しました。
自分の個性をもとにした研究は、非常に円滑に進みました。それに、「私だからできる」「私がやるべきだ」と、常にやりがいを感じながら研究を進めることができました。今は大学で、臨床検査技師の国家資格の取得を目指して勉強しています。同じ目標を持つ学生はたくさんいます。でも、「私だからできること」がきっとある。ただ知識や技術を磨くだけではなく、志を持った臨床検査技師として、この先に出会う人たちの健康に貢献していきたいと思います。
本気で取り組まないと意味がない。だから、本当に自分が興味のあるテーマを研究しよう。そんな思いでたどり着いたテーマが「野鳥の暮らし」でした。もともと動物が、特に鳥が好きだったのですが、地域の開発や発展が、野鳥の暮らしを脅かしているということを耳にしていたので、沖縄の状況を調べてみようと思い立ったんです。
実際に沖縄でも、森林保護と農業発展では食い違いが起きていました。森林保護を優先して「鳥の暮らしを守ろう」と主張することは簡単かもしれません。ですが、同時に人の暮らしも守らなければならない。その両立はできないだろうかと、世界中の事例を探して見つけたのが、森林を伐採することなく、森林の中でコーヒーを育てる「シェードグロウン農法」でした。
その事例をもとに、沖縄の自然林周辺の地域でコーヒー農園を営み、農園の周りには沖縄在来の樹種で人工林を作る。そしてその人工林と自然林をつなげていくことで、森林拡大と農業発展を両立する道筋を検討しました。レポートにまとめる際は、とにかく再現性と具体性にこだわりました。実際の地形図を引用したうえで、沖縄に自生する多様な樹木の中から適切なものを厳選。木陰でも育つ作物として、海外の事例と同様コーヒーの栽培を提案。データから算出した説得力のある構想のもと、沖縄のコーヒー産業の開拓といった開発ビジョンも含めたレポートを完成させました。
いくつもの視点を組み合わせた研究は、正直かなり大変でした。それでも最後まで粘り強く取り組めたのは、きっと「野鳥の暮らしを守りたい」という個人的な願いが起点になった研究だったから。自分のやりたいこと、突き詰めたいことだったら、エネルギーはどこからでも湧いてくる。そんなことを実感できた探究活動でした。
今、私は大学で獣医学について学んでいます。解剖学、病理学、薬理学……。必要な知識は膨大です。でも、自分で学びたいと思ったことだから、毎日の講義には真剣に取り組んでいます。これからさらに専門的な分野に進んでいきますが、自分の「興味」を大切にしたいと思います。
もともと、私の夢は看護師になることでした。だから沖縄での探究学習でも、医療と紐づけたテーマで研究を進めようと思っていました。そこで目を付けたのが、地域医療。感染症をはじめ、地域ごとによく発見される疾病があり、地域医療はそれらに適したかたちで生まれ、発展していきます。その歴史を調べることは、自分が看護師をめざすうえでもよい経験になると考えたのです。
しかし、ただ地域医療の歴史を調べるだけでは、研究レポートにまとめる価値が大きいとは言えません。だから今回は、医療が十分に発達していない地域への還元を見据えて、レポートを制作しようと考えました。
沖縄は、日本のなかでも特殊な地理と気候の地域です。地球上でいえば、インドネシアのそれと非常によく似ています。つまり、沖縄の地域医療の発展、その系譜をたどれば、インドネシアで問題視される、マラリアを代表とした感染症の対策に応用できるのでは。これが、私の研究テーマでした。
この研究を始めるなかで、まずは地域医療がどのように発展していくのか、そのプロセスを明らかにするところから始めました。その中で、医療はただ時代や技術とともに発展していくわけではなく、その土地の自然環境や社会環境、そして県民性とも密接に関わり合うことを発見しました。医療の知識だけでは、医療は進んでいかない。その事実は、私にとってはとても興味深いことでした。
私は今、医学部の看護学科で、さらに医療の学びを深めています。選んだ大学は横浜市立大学で、国際的な看護の力を養うことに力を入れている大学です。ただ医療の知識を学ぶだけじゃ、救えない命がある。世界中の医療についての知見を広げて、常に最適な医療を提供する、医療人になる。それが、私の夢であり、目標です。